教えて!インタビュー 『ボルボ・カー 多治見』中根さん

教えて!インタビュー 『ボルボ・カー 多治見』中根さん

教えて!インタビュー ボルボ・カー 多治見 中根さん

2022 4 13日訪問

私たちの日常生活の移動手段である自動車の多くは、ガソリン・軽油という化石燃料を使用しています。限りある資源である化石燃料は燃焼することで多量のCO2を排出し、地球環境へ大きな負荷を与えています。

エシカラはこの問題への対応策を自動車のプロでありSDGs先進国スウェーデンのボルボディーラー社長中根さんにお尋ねしました。

 

エシカラ)先だってはダイレクトメールでのエシカラの紹介をありがとうございました。

中根さん)エコバディス(※1評価が4年連続で最高評価だったと言うニュースがあったので、このタイミングでサスティナブルな話題に集中したメールにすると面白いかなと思い紹介させていただきました。

EcoVadis世界レベルで最も信頼されているサスティナビリティ評価。評価は環境、労働慣行と人権、倫理、持続可能な資材調達を含む、財務以外の管理システムを網羅していて、世界各地で75,000社以上が評価を受けている。

エシカラ)現在は夏号の『アニマルウェルフェア~動物福祉』に関して原稿を書いています。命に関わることなので、重くてなかなか進まないですね。

今までの記事、食べ物や生ゴミの処理はある程度自分のやってきたことであり、こうすればこうなると話が出来ますが、動物の命に関してとなると、犬や猫と暮らした経験があっても伝え方を考えるとなかなか難しいです。

中根さん)私も食育については、PTAの関係で取り上げて、集中的にやってた時期がありますが、その中で「当たり前のように命をいただくことがどうなのか」と学ばせていただきました。

現代人はお魚などは丸々も見ますが、お肉は加工された状態がほとんどで屠殺(とさつ)される現場は見たことがない人が普通ですね。上の世代では鶏であれば羽をむしったりするのは子供の仕事だったりするので経験をしてるんですけれども、今はまずやることがないので命を頂戴してるという感覚が希薄化してると思うんです。

その辺はあまり見たくないものではあるでしょうが、どこかで知っていく必要はあるのかなという気はしますね。

エシカラ)それがなかなか伝え方が難しくて言葉を選んでも選びきれない、悶々としてる状態ですね。

中根さん)今日のNHK連続テレビ小説が、アババという名の飼育していたブタが食卓に出たというお話だったのです。明日それを知った息子さんがどういう反応するか、そういうことでもいいと思うんです。実際に命を頂いている人間が、そこに対してあまりにも無頓着であってはいけないということをどこかで啓発していく必要があるような気がします。

エシカラ)当初から資料として『エシカル、ここから』をお渡ししている、畜産科や動物科学のある農林高校が2校あります。そういった方達にも、現在日本で行われている畜産がアニマルウェルフェアに則さないことを伝えるのですが、伝え方はなかなか難しいです。

ボルボのアニマルウェルフェア

中根さん)ボルボはヴィーガンレザーへの取り組みはアナウンスとして当然だしていますが、それがどのような製造工程なのか、とかまでは私共に情報はないです。

レザーについて、実はシートの表皮の人間が触る部分、要は座面と背もたれ部分とハンドルとシフトレバーの部分は本物のレザーですが、裏側やサイドはもともとフェイクのレザーで、それらはよく見ると分かるというイメージでした。

しかし、今回納車されたボルボC40 Recharge(バッテリー電気自動車)のヴィーガンレザーはフェイクとはほとんど分からないです。その車から完全ヴィーガンレザー仕様が始まり、新型電気自動車は全てそうなっていきます。進め方は確かに早いですし、やるとなると方針は一貫してるので全部やるという流れです。それは当然今までの取引先などをスパッと切ることにもなり、なかなかラジカルなことではあると思います。

ボルボはスウェーデン国内だけでなく色々なものを多くの国から供給していただいています。たとえばコバルトなどの必要なものは発掘の現場からデジタルのブロックチェーン技術(※2)を使って認証して、人権侵害がないか、環境汚染がないかなどの第三者認定を経て、それしか使わないというようにしている。徹底しているな、という感じですね。

2 取引履歴を暗号技術によって過去から一本の鎖のようにつなげ、正確な取引履歴を維持しようとする技術

エシカラ)ヴィーガンレザーにもトウモロコシ、サボテン、りんごなどがありますが、こちらの素材はわかりますか?

[資料]ボルボ・カーズは、革製のインテリア・オプションの代わりに、バイオベースやリサイクルソースから作られた高品質なサステイナブル素材などの代替品をお客様に提供します。例えば、ボルボ・カーズが開発した新しいインテリア素材「Nordico(ノルディコ)」は、ペットボトルなどのリサイクル素材、スウェーデンやフィンランドの持続可能な森林から採取された生物由来の素材、ワイン産業からリサイクルされたコルクなどを使用したテキスタイルで構成されており、プレミアム・インテリア・デザインの新しい基準となるものです。

エシカラ)ヴィーガンレザーを取り入れるということは、当然アニマルウェルフェアを踏まえた上のことと思いますが、ボルボ本社からアニマルウェルフェアについて何か言葉で伝えられたことはありますか。

中根さん)あまりその部分は強調していないですね、サスティナビリティという大きな枠組みの中での一つの取り組みという紹介の仕方ですね。SDGsみたいに全て絡んでくるものですから、サスティナビリティの中の一角にあるアニマルウェルフェアも取り入れるという感じです。

レザーの発注が増えて、どこかの食肉加工が今まで廃棄していた革を使えると言う状態から、レザーのためだけに命をいただくということが起こってくるのは避けたいでしょうから、そのような意味で成長するほど色々なところに影響が及ぶ中で、継続できるやり方を考えて出てきた内容ではないかと思いました。

日本は特にレザー仕様の販売比率が非常に高いです、せっかく高級車を買うのであれば内装はレザーという方が多いですね。ヨーロッパでは意外とそうでもなくて、若い方々だったら自分の予算に応じて内装はテキスタイル(布)で良いという方も多いと聞いています。日本の場合、「せっかく買うのだから」という方が多い傾向がありますから、グレード構成も一番上のグレードの比率が結構高いんですが、ヨーロッパは逆みたいですね、下の方が多いようなことがあるみたいです。

例えば車にマッサージ機能なんていらないという人は、買わないです。本当に自分にとって必要なモノしか買わないところがありますね。レザーに対する感覚が日本とヨーロッパでは違うんですね。

エシカラ)確かに子供の頃から車を色々見ていますが、高級車のイメージと言うと牛革のシートみたいなものがあります。

中根さん)ただ、レザーは自動車のシート素材として考えると実はそんなにいいものではないです。機能的な面では吸湿性がないですよね。吸湿性がないから滑りやすい、ホールド性が悪いということもあります。ホールド性は形を考えることである程度大丈夫なんですが、汗をかいたら当然蒸れます。

汗をかいたことをクリアするためにわざわざ穴を開ける、ファンを仕込んでベンチレーションまでつけることまでしないと(テキスタイル同等の)快適なシートにならないわけなんですよね、ですからある意味その他の素材の物量で快適性を担保しないといけない、そういう素材なんです。

テキスタイルはもともと伸縮性があります、吸湿性もあるし、滑りにくい。あらゆる面で革シートよりは高機能と言えます。ただ皮革信仰と言いますか、『レザーは高級なもの』そういうものが欲しいと言う方の要望を我慢してもらう方向性ではなく、そこをどう調整するか、という点がものづくりの腕の見せ所で、「ご希望を承りながら環境親和性を高くするには?」という一つの回答がヴィーガンレザーということだろうと思います。

エシカラ)ヴィーガンレザーに関して、感触はレザーであるけれども機能性としてはテキスタイルの方に近いんでしょうか?

中根さん)質感自体からすると、察するにはそんなに吸湿性あるようには思えないのでやっぱり既存のレザーの質感を徹底して分からないように追求してあるんじゃないかなという風に思います。(2023年モデルのC40 Rechargeでは、マイクロテックと呼ばれる新素材と、テキスタイルまたはスウェードテキスタイルとのコンビネーションが標準設定で、オプションでテーラード・ウールブレンドという自然由来の素材をお選びいただけるようになりました。)

エシカラ)エシカラからの提案として、所有している車を使うときに環境負荷が少ない乗り方をお伝えして行きたいと考えています。

車の製造過程から発生するCO2

中根さん)車の環境に対するインパクトというのはランニング(維持・運用)で発生するCO2だけの影響だけではなくて製造から始まります。製造する為の原材料の採掘、例えばアルミであればボーキサイトから電気炉に入れてアルミニウムを作る所でもエネルギー投資があるわけなんです。

そういうイニシャル(初期)で出てくる製造段階でのCO2換算の環境負荷とランニングの時の負荷と最終廃棄するときに発生する負荷も、基本的に全部CO2で換算するツールがメーカーの方にあります。

製造で発生すると言うと、ボルボ工場に通勤する社員の方々が車で通勤するのか、電車で通勤するのか、そういった計算までするらしいですが、そこまでやらないとトータルで製造するときのCO2換算負荷が出ないってことですね。それを計算していくと需要地で作るのが一番いい。

例えば船に乗せて車を運ぶとしますね、ヨーロッパから需要地へ。例えば大きなセダンは中国が一番よく売れると言うと中国に集約したりします。地産地消じゃないですけどそういうことも含めてトータルで環境負荷を少なくすることがまず最初にあります。

(この対談の直後、すべてのボルボ・ディーラーについて、年間CO2排出量を毎年調査するアクティビティーが開始されました。電力・ガス・燃料などのエネルギー消費はもちろんですが、デモカーの台数や走行距離、洗車台数や水の使用量、広告やIT投資、出張の方法や距離、従業員の通勤距離と交通手段など、多岐にわたる調査を2021年の結果からはじくわけですが、7年間でCO2排出の半減を目指すという野心的な目標を掲げています。)

ユーザー目線で見ると製造には直接関われないので、選ぶ時にそういうものに配慮した車を選ぶ事しかないと思いますが、運転に関していうと相当改善幅が見込めると僕は見ています。

参考ボルボ社のサステナビリティに関する取り組み

環境負荷を少なくする運転方法

運転ポイント① リッター何km走行しているかを意識する

中根さん)家族に「私より2、3割高いガソリンを買っているよ」と僕はよく言うんです。それだけたくさん燃料を消費しているよ、という意味です。

燃料を今満タンに入れて〇〇リットル入れ、次の給油までに何km走りました。そして1リッター何km走ったという計算はやられている方も多いと思います。それを意識するところから始めて、それまで何の意識もなく普通に快適にエンジンをふかして乗っていた方がエコ運転の技術をマスターすると燃費が2割は伸びると思います。

運転ポイント② 急加速・急停止しない

中根さん)僕が運転をする時、必ず前の車に離されていきます。前の車について行こうと思うと、かなり負荷のかかった運転をしないとついていけないんです。それが一般的な運転です。ある程度エコ運転をマスターした人からすると、周りの人たちはなんて無駄な運転をしているんだろうと思います。

例えば、前の車は負荷をかけて加速し、先に離れて行った。しかし、こちらは徐々に加速していっても途中で追いついてしまうとか、前の車は信号待ちをしていて、後ろから行くこちらはノーブレーキングで信号を青で通過できるなどは、よく見かける光景なんですよね。

エシカラ)「あの車はエコな運転してる」というのは見てわかりますか?

中根さん)あまりエコな運転をしてるなって感じることは少ないですが、エコじゃない運転はすごく目に付きますね。

エコな運転にはいくつかポイントがあります。初速時は一番エネルギーを使うんです。「時速20Kmになるまでに5秒かける」みたいな目安があるんですけど、それを意識するのはなかなかつらいと思います。ストレスになるし毎日意識してカウントできないと思うんです。どのように表現したら一般の方にもわかりやすく身に付けられるのか?というのが僕の一つのテーマなんです。

今の所わかりやすいかなと考えるのは、パワーのあるエンジン車を運転していても、あたかもパワーのない車に乗ってるかのような運転をするということです。非力なエンジン車は当然エンジンをふかしても走って行かないですね、そのような車を運転しているという意識で運転する、要は力強い走りをしないということです。「力のあるかのような車の運転をしない、ならば急加速はしない」というのが一番わかり易いかなと今のところ思っています。時間をかけて少しずつ加速することをイメージするんです。

あたかも「非力な車に乗っているかのような運転」という表現になりましたが、それではストレスがたまるという方もあろうかと思います。そういう方には、タイヤの接地面が自分の素足の裏であると思って労わる運転=「タイヤいたわり運転」という言葉の方が、実感として伝わりやすく、抵抗感がないかもしれません。これは急ブレーキや据え切り(スエギリ車を停車させた状態でハンドルを切ること)などの抑止にもなり、タイヤも長持ちします。

運転ポイント③ 上り坂でふかさない

中根さん)例えば上り坂であまりふかさない。上り坂はスピードが下がっていって良いんですよ、ボールをコロコロと転がすと初速があってゆっくりになって、峠でほとんど0になってころんといく、これが一番理にかなっていますよね。(もちろん車の場合は交通の流れがありますので、減速するとしても一定の速度までにしておかないといけないのですが。)

逆に上り坂で加速するような運転ですと、下り坂でブレーキを踏む量が増えて、たくさんのエネルギーを捨ててしまうことになります。峠の頂上では、少しスピードが落ちているくらいの登坂を心がけることで、エネルギー消費が少ない運転になります。

運転ポイント④ 高速道路ではスピード控えめ

中根さん)高速道路は、市街地走行に比べて、信号もなくアクセルのON/OFFも少なめなので、燃費は向上しやすいですね。でも、市街地走行ではあまり影響しない空気抵抗は、高速になると非常に大きなファクターになってきます。100km/h前後となると、おおよそ速度の2乗に比例してエネルギー消費が影響を受けるといわれています。高速道路の一部区間は制限速度120km/hとなりましたが、この速度で走ると100km/hの走行に比べて4割もエネルギー消費が増えてしまうということです。少し余裕を持ったスケジュールを組んで、無駄なエネルギー消費を抑えたいですよね。

運転ポイント⑤ 車間距離をとる

中根さん)一般の人があまり意識しておられないのが車間距離と燃費の深い関係です。車間距離をしっかりとるだけでも1割程度はすぐ改善します。何故か?ぴったりくっついてしまうと、前の車が左折するときなどブレーキを踏みますね。自転車や歩行者がいたら完全停止までするかもしれない。でも450メートル離れていれば、こちらはアクセルオフでブレーキも踏まず減速するくらいでパスできます。

完全に止まらないということがとても大事で、前のほうが赤信号であっても距離があれば青になるまでに信号へ近づく、その時はすごくゆっくりでいいんです。アクセルオフでついていって、完全停止をしないようにと意識するだけでも全然違います。

止まってからの発進はローギアでエンジン回転数をあげて引っ張らないといけないのですが、少し動いているだけでも加速の時に使うエネルギーはかなり節約できます。車間距離が短くて完全停止し、アイドリングストップ、それから加速する。というのと、アクセルを戻し、ある程度早めにブレーキ踏み、速度を落とし近づいて、最後に完全停止する前に発進するのとでは、後者の方がエネルギー消費が少なくてすみます。

又、「波状運転」という言葉がありますが、実際にお客様のご試乗に同乗させていただきますと、無用なアクセルON/OFFが習慣的になっておられる方が時々いらっしゃいます、これを改善していただける良い標語を考えてみますと、減速の必要が発生するまではアクセルを一定のポジションでキープする(一定速度になって、アクセルを多く戻す必要があるとすると、元々が踏み込みすぎということ)これを一般には「ふんわりアクセル」という言葉が定着していますが、徐々に徐々に開いていって、一定のところで止めて安定させるという動き(ON/OFFを最小限にする)を表現するのには、『じんわりアクセル』(中根さんの造語)と言った方がよい気がします。

エシカラ)停止するということは残りのエネルギーを捨ててしまっているという感覚でいれば良いんですね。

良いことばかりのエコドライブ

中根さん)全てに良いことがあってですね、まずブレーキを踏むということはブレーキパッドが熱くなります。そして減りますね、ホイールが汚れますよね、グリップ力っていうのはタイヤと路面に伝わります。ということはタイヤもすり減っていくということです。減速時にタイヤが減り加速時にまたタイヤが減るんですね。エコ運転を心がけるとブレーキパッドも減りにくい、タイヤも減りにくい、車間距離あるので事故もしにくい、いいことだらけなんです。

実は車間距離をつめていっても、信号一つ分ぐらいの違いはあるかもしれませんが意外と到着時刻は変わりません。カリカリしてついて行くのは本当にエコじゃないんです。

タイヤのエアー圧

中根さん)又、運転ではないですがタイヤはとても大事で、エアー圧が低いとタイヤが歪みます。歪んだタイヤを回していくので一箇所で見ると波打つ運動を続けるのですが、それは熱を持ち圧倒的に力がいるわけです。エアー圧の調整はとても大事で、最低でも年に2回は調整しないといけないと思います。なぜかと言うと、冬場に合わせたとすると夏場には体積が小さくなり歪みが生まれるからです、全く抜けていないとしても。車の定期点検は今は一年に一度となっていますが、タイヤのエアー圧だけはスタンドでもいいので半年に一回は見ていただくといいと思います。

更に、タイヤの摩耗状態ですね。偏磨耗(タイヤの路面との接地面が道路条件や使用条件により、部分的に異常に摩耗すること)と、内側と外側の減り具合を確かめていただくということ。タイヤって外側の山しか見えないですね。内側の山はしゃがまないと見えないんですが、もしそこがすごく減っているとか、内側と外側で減り方が違う場合はアライメント(車輪の整列)といってタイヤの角度がずれている可能性があるんです。そうすると直進するのにエネルギーがたくさん必要になるので、実際にタイヤがバースト(タイヤの破裂)することも最悪の場合あります。外側から見ると全く大丈夫なのに内側はワイヤーが出てるような車もあるんです。

また間違ったエコ知識で「タイヤのエアー圧は上げれば上げるほど燃費が良くなる」これは正解なんですが、やりすぎてしまうと偏摩耗が起こるんです。たとえばバルーン状態になってしまって真ん中だけが減ってしまう。外から見ると山は残ってるけど真ん中はツルツルになってしまっているとか。エアー圧は少し高めくらいが良いですが、一般的な乗用車であれば260Pa(キロパスカル)くらいまでに留めておいた方が良いです。ドア下のボディなどに貼ってある『適正空気圧表』の一番上ぐらいまではいいんですけど、それ以上上げてしまうとタイヤの偏摩耗問題が起こって安全性にも問題が出て来るので『適正空気圧表』上限までとしてください。

エシカラ)高速走行の場合は空気圧を変えたほうがいいんでしょうか?

中根さん)『適正空気圧表』を見ると乗員数と速度が両方表示されてると思います。高速のほうが気持ち高めが推奨されているんですね。なぜかと言うと先ほどの話でタイヤというのは変形していて走行する時には熱を生じるので、高速道路では歪みが少ない方がいいわけなんです。それで少し高めが推奨されています。

でも、そこまでやる方はなかなかいないです。頻繁に高速道路を使う方は高速モードのエアー圧で普通の道を走るのは問題ないので、最初から高速モードの空気圧に設定しておくのもいいかもしれません。

一般の人にお伝えしたいのは、最低でも半年に一回はエアー圧を調節すれば、それだけで燃費も安全性も高まると言うこと。ポイントは環境負荷が少なくなるだけでなく、安全性もプラスになることです。

よりエコを意識して走るために

中根さん)更に、できるだけ渋滞する時間帯を避けて運転すると、概ねカタログ燃費が出せます。

短距離では難しいですが、20km程度の走行距離で、信号の少ない所であればカタログ燃費に近い数字が出ます。止まると燃料消費するので完全停止するのはできるだけ避けたいなと言うところです。

エコな運転をしていると、脇をすり抜けていく車に対して、「勿体ないなぁ」という気持ちになってきますよ 笑

運転の仕方によってガソリン使用量が23割違ってくるとしたら、全国のドライバーがエコ運転を身につけるだけで、化石燃料を大幅に節約できるということになります。

日本は原油輸入国なので、輸入を減らし、CO2を減らす。絶対的に良いことですね。私達整備する方としてはブレーキパッドの売上が落ちますけど 笑

EVになるとその辺が多少苦手な人であっても、その運動エネルギーをブレーキパッドを使用せずにモーターの発電力で速度を落とし、そのエネルギーを再度充電します。効率がどの程度かというのは車により違います。また、発電する際に熱として逃げる部分もあるので100%の回収はできませんが、相当量を回生している感じですね。

EVやプラグインハイブリッドはいいですが、マイルドハイブリッドは貯められる電池の量が少ないので長い坂で回生してもすぐいっぱいになってしまいます。次の加速アシスト数回分ぐらいは回収できますが、一定以上の容量を回生しようと思うと、プラグインハイブリッドの電池容量と、充電時間をできるだけ長くとる(時間をかけて減速する)ことが必要となります。

ハイブリッドでも単純にブレーキを熱に変えるよりは、運動エネルギーを電気として蓄えるので消費は必ず減らせる。ただその分、重たいバッテリーを積まないといけないのでこのバランスの見極めが難しいところです。

そうした理由により、使い方によっておすすめすべき車のタイプは変わってきます。例えばある会でお会いした社長から「そろそろ車を乗り換えようと思うんだけれど、やはりEVかね」と言われた時に、ご利用内容を聞いたところ、その社長は年間3km走行され、しかも、高速で東京まで結構頻繁に行かれるというお話でした。そのような利用内容の方には今のところEVはお勧めできませんとお話しました。

頻繁に長距離の出張に出られるような使い方の場合、EVでは途中で充電が必要になってくるので、充電時間や充電場所を確保しなければならなくなります。そうした使い方であれば、現在でもクリーンディーゼルなどが最適かも知れませんし、地元の近場もよく乗るよ、ということであればプラグインハイブリッドになるかもしれません、という感じですね。

エシカラ)用途によって車種やエンジン形態は選ぶべきということですね。

中根さん)一例として、ご高齢の方でプリウスを購入したいという方がいます。伺うと年間23000kmしか運転しない。となると製造のために費やした環境負荷がずっと回収できない訳です。ハイブリッドに乗っているから良いんじゃないかと思われるかもしれませんが、イニシャル(初期)の環境負荷を考えないといけない。

エシカラ)車を購入してからの環境負荷だけでなく、その前の製造時からの環境負荷を考慮する必要があると言うことですね。

中根さん)短距離を頻繁に動く人はEV化する価値がとてもあります。何故かと言うとエンジンには作動に適した温度があり、約100ぐらいの温度にならなきゃいけない。

(ガソリン車の場合)エンジン本体や中を冷やしているクーラントとか、全部を100にしないといけない。100になるまでの間というのは温度が低すぎるので燃料を多めに使用するんですね、早く温めてあげて温かくなると排気ガスも綺麗になる(高温になってはじめて排気ガスをクリーンにする触媒装置が働く)ので最初は燃料をたくさん投入するわけです。温まって、これから調子良くという時に停止したりすると、その熱エネルギーをまるまる捨てることになるわけです。このような乗り方の人はEVに乗り換えると劇的に負荷が少なくなります。

「カタログには燃費20km/lって書いてあるのに、私は10km/lしか走らないよ」と言う方は良くあるのですが、その方は先ほどのアクセルの踏み方とか車間などを意識して頂く。できるだけ渋滞する時間を避けていただくのも効果的です。ただし、あまりにも短距離ばかり、しかも時間をあけて乗られる方は、なかなか良い数字を出すことは困難で、車のメンテナンス上もシビアな使い方ということになりますね。

エシカラ)今、一般的なSDGsに配慮した車社会と言うと、トヨタもEVに向いてきたというし、全てがEVベストみたいな感じが気になっていました。そのような見方もあるんですね。

中根さん)国によってもエコカーの定義は変わってくると言われています。例えば天然ガスがたくさん算出されている国だとガソリンを精製して運んでという負荷まで全部考えると、地元の天然ガスエンジンにした方が環境負荷が少ないということもあり得る。電気にするのも火力発電で作った電気を使っている以上はCO2を出しています。ガソリンエンジンよりは発電効率が高いので送電・充電のロスを考慮しても一定の環境負荷低減になるとは言えると思いますが。

そのような中で、再生可能エネルギーでの発電をもっと推し進めないと完全なEVになってもそんなにエコじゃない話になるわけです。今の日本の環境で一番環境負荷が少ない方式は何なの?となると、もちろん人により使い方によって変わるんですが、押し並べて平均的な使用者で考えるとプラグインハイブリッドが負荷は一番少ないという結果に成るようです。

エシカラ)ボルボは2030年には100EVという方向性ですね、100EVで行ってしまうとバッテリーの製造という重いものがあるじゃないですか、そこを考えると100%EVになることによって今までの環境負荷との比較が、そんなにがたんと落ちるのかなって感じははありますが。

自動車の未来へ向けての展望

中根さん)当面そうですね。バッテリーの生産は一定のところまでは純増してきますよね比率が。今後も人口が伸びなければですが、保有台数の中でリサイクルしていくっていう循環ができるでしょう。しかし当面は採掘しないと間に合っていかないということになると思いますね。それで実際にある程度行き着いた社会が、世界で一番進んでいるノルウェーなんです。

ノルウェーは電力の発電の需要の90%が再生可能エネルギーで、直近の新車販売に占めるEVのシェアも80%を越え90%近づいているといいます。そういう方向に世界も少しづつ近づいていこうとしているんですけど、日本については車に補助金をつけるよりも、まずは再生可能エネルギーを作り出すところに、戦略的な投資をしていくという政策が必要だと思っています、すると太陽光ってなるのですが、発電の波が大きすぎるんです。

そういう意味でいうと洋上発電(主に海洋上における風力発電のこと)はもっと力を入れていくべき分野なんじゃないかと思います。海に四方を囲まれているわけですし、エネルギーの大消費地は、臨海への集中度が高くて送電コストも抑えられ、騒音も問題になりません。専用の船をうまく開発できれば、むしろ地上より入れ替えやメンテナンスが楽にできる可能性も高いと思います。

エシカラ)浮かせてる分移動も容易のようですね。

中根さん)発電機製造、設置技術、送電技術、メンテナンス技術などをパッケージングとして開発できれば、システムとして成り立つ可能性は十分あると思いますし、そういった世界にさきがける技術革新だとかが内燃機のエンジンの製造業が縮小したあと、クリーンエネルギー輸出というひとつの基幹産業に育てていくことができるのではないか、海洋国ならではのメリットを生かしていくことになるのではないか、その方面に国を挙げて投資したらどうかと思っています。

そうすれば、国として、海外から買い続けてきた油の輸入を劇的に減らし、逆に自動車に代わる外貨獲得産業を育成することができます。とりたててEVが良いよと言わなくても自然に売れていくと思います。量産によりEVのコストは間違いなく下がっていきますし、静かで滑らかなのに力強い走り味を楽しめる、という商品の魅力もありますので。逆に、内燃機関の車両製造コストはEVより高くなる日がいずれ来ると言われています。より高い排気ガスの浄化や排出量削減の目標達成が義務化されている上、徐々に台数が減少することにより、開発・製造のコストが上昇することが避けられないからですが、遠からず「まだ排気ガスを出す車に乗っているの?」といわれるような世の中になると思います。

(後日補足)EV化は製造時の負荷が高いため、ランニングに使う電気の発電の方法により、環境負荷的に元が取れるのに、大きな差がでてきます。このあたりボルボ社はライフサイクル報告書として、きちんと資料を公開しています。

C40 Rechargeのライフサイクル報告書(英語版)

中根さん)これによりますと、C40 Recharge EV)のカーボンフットプリント(ライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量のCO2換算値)は、100%自然エネルギーによる発電という環境下(ノルウェーがこれに近いです)で、47,000km走行したときにガソリン車とイーブンになるとしています。これがEUの平均的な発電環境ですと77,000kmになり、世界平均ですと110,000kmにもなります。単純にEVは排気ガスを出さないから環境にやさしい、などと言ってはいけないことがおわかりいただけるかと思います。

エシカラ)思っていた事とは違うお話も聞けて、とても勉強になりました。

多くでEVが一番みたいな風潮が気になっていたので、「乗り方によって違うんだよ」ということもお伝えするのが良いかなと思いました。

中根さん)実を言うと、日本には軽自動車マーケットという巨大なマーケットがあり、そのマーケットこそ実はEVにはぴったりなんです。要は長距離をそれ程には走らず短距離がほとんど。そのような使い方なら高価なバッテリーをたくさん積む必要はなく、走行距離が200km程度あれば十分だと思います。仮に私は、通勤が往復30kmの距離、もし200kmの継続走行距離があれば一週間に一回の充電でいいわけです。今後はガソリンスタンドも減っていきますから、特に地方の足としての軽自動車は5km走らないとガソリンスタンドにいけないみたいな時代が来ると思うんです。しかも地方は持ち家の比率が都会に比べて高いので、充電器を設置するハードルも高くありません。大量の電池が不要ということは、軽量ということでもあり、効率(電費性能)も高いんですね。メンテナンスやランニングコストも含めて考えると、現在でもガソリン車に充分に対抗できるぐらいの価格競争力があると思うんです。

本格的な軽EVが今年三菱・日産連合で多分出てきます。(インタビュー後の6月16日日産・三菱共同開発で軽自動車EV『サクラ』が発売され、発表約3週間で受注台数1万1000台を突破する勢いです)

来年以降軽自動車のシェアの高いメーカー、ダイハツ、スズキ、ホンダさんも出してくると思いますが、これらが約200万円くらいで僕は出てくると思っています。今でもガソリン車のN-boxなどはナビをつけると200万程度になるので、それぐらいの価格帯だったならばオセロゲームみたいにガラッとEVへ変わってしまうと思います。

どうしてかと言うと、自分がプラグインハイブリッドやEVに乗ってみて思うのは、ある意味ガソリン車が何十年とかけて目指してきた価値が簡単にEVには出来てしまうと言うことです。それは、より滑らかで静かな「パワートレイン」(エンジンで発生した回転運動を駆動軸に伝える部品や装置類の総称)なんですね。滑らかで静かな駆動を実現するには、かつてはV85Lのエンジンに89段とかの変速をつけるようなことをしないとトルクが大きくて静かで滑らかにと言うのはできなかったんですけど、EVだとあっという間に出来てしまう、それは軽自動車でも同じ静かさで出来るということです。

昔アナログオーディオが流行っていた頃は大きなオーディオセットをお持ちの家が結構あって、アナログオーディオを趣味にしてる方がいたんです。スピーカーにこだわったりアンプにこだわったり、それはお金をかければかけるだけ音が違ってくるからなんです。だから趣味になったんです。それが、CDやデジタルオーディオの時代になった途端に衰退してしまったのは、そんなにお金をかけなくてもノイズのないクリアな音が出てくるからなんですね。

現在のアナログオーディオセットは趣味としてニッチなものになってしまったわけですが、おそらくガソリンエンジンもそうなると確信的に思っています。

ガソリンエンジンが目指していたものが低コストで出来てしまう。劇的に自動車趣味も変わるだろうと思います。コモディティ化(どこが生産したかに関わらず、市場が商品価値をほぼ同等に扱うこと)が極まると思います。

エシカラ)加速度的に変わりそうですね。

中根さん)特に日本は世界から遅れて付いていっている状況で、ヨーロッパは伸び率の角度で言うと今、まさに絶好調で伸ばしてるんですね。日本はまだまだ初期段階で少しずつ伸びてはいるけれど角度は上がっていません。多分2025年ぐらいから30年に向かってこの角度のピークが来ると思います。すごい勢いでリプレイスが進んでいくと思うのですが、それはひょっとしたら軽自動車がEVに変わっていくという形で出てくるかもしれませんね。

エシカラ)日本の軽自動車の業界は大きいですからね。日本が狭いこともあると思いますが、お子様がいたらセカンドカーになったり、メインカーも軽自動車であったりします。

中根さん)地方はどうしても職場まで歩いて行くことが難しい人が多く、幸い土地はあるということで一人一台になります。僕は家庭内での「自動車エンゲル係数」という言い方をするのですが、地方はそれが高いわけです。大きな車はあるとしても1台あればいい、基本は小さい車で良いという発想になるんですね。都会の方だと置き場所に困るので、色々なことに使える大きい一台にしようという形になると思うのですが、地方の方へはコンパクトで環境負荷も非常に抑えられる軽自動車EVの可能性があると思いますね。

ただ、これは僕たち自動車業界、整備業業界にとっては大変なことなんです。業界がガラッと変わってしまうので。笑

実は国産メーカーもたとえばトヨタさんは多治見市・土岐市・瑞浪市・恵那市・中津川市、とそれぞれの市ごとに複数のディーラーがあるのですが、そういった必要がない時代になってくると思います。メーカーによっては、例えば多治見市には店舗があるけどその他の市は整備工場だけ、という時代がくると思います。

提携整備工場をこれから組織化していくことは、検討段階に入ってきているようです。あまり表立ってはいないですが、整備業の組織には打診が来てるという段階のようです。

エシカラ)この先は多方面で変わるのが早そうですね。

終わりに

エシカラ)次号かその次の号には、お話し下さった内容をピックアップして記事にさせていただきます。

中根さん)「じんわりアクセル」と「車間距離」だけでもだいぶ大きな差が出ると思います。

エシカラ)お聞きした、EVも用途によっては万能ではないというお話はブログの方でまとめさせていただきますね。

中根さん)どういう使い方をするかということをお店の人にちゃんとお話しして、燃費のことなども当然気になると思いますが、「環境負荷が少なくなるような車は、自分の使い方だとどういう車になりますか」ということを聞いていただければ多分的確なアドバイスがくるのではないかなと思いますね。

エシカラ)高い車を売れば良いということがあったりしないでしょうか? 笑

中根さん)人によっては売れればいいと思っている方もいるかも知れませんが、「環境負荷について自分は関心があるんだ」とアピールすれば、セールスはお客様の一番大事にしていることを外したら車は売れないことがわかっています。「私はこのような価値観を持っている」ということを伝えていただくことで必ずセールスの方もその価値観を大事にしてくれると思います。

エシカラ)購入の際のポイントは、「どのような価値観を持って購入を検討しているか」、「自分の自動車の使い方」「自分の必要としている車の機能」などを初めに伝えること、ですね。

中根さん)そのように環境負荷について意識の高いお客様が増えてきていることが、販売店側に伝わることはとても良いことで、環境負荷低減に対してさらなる努力をしなければならないということを痛切に感じるはずです。それが一つのムーブメントを後押ししていくことになると思いますね。

インタビュー後記

ボルボはスウェーデンの車メーカー、北欧は世界レベルでもSDGsの先進国が集まる地域です。その先進国の自動車メーカーであるボルボの環境負荷との向き合い方を聞き、日本における対峙の度合いの低さを実感しました。特に自動車を購入した後の環境負荷を考えるだけでは片手落ちで、製造段階での環境負荷を考慮に入れて判断することが肝要だとする点については、現在の日本メーカー販売店がどのくらいの割合で顧客へ説明が出来るのだろうか?と疑問に感じました。

又、化石燃料であるガソリン等の燃料消費を抑えるためのノウハウについては、お聞きした後に私自身が実行しています。

私の車にはタコメーター(エンジン回転数を表示する計測器)が装備されているので、目安として発進時の初速を回転数1000回転程度として運転することにしました。

車種によりアイドリング時の回転数には相違があります、私の車のアイドリング時回転数は約600~700程度(6月の気温時)です。

当初は40年以上続けた運転を切り替えることにストレスが伴い、挫折しそうな時もありましたが、少しずつ慣れるとインジケーターのガソリンの減り方が以前とは違うことに気づき、実際の燃費計算では1.5km/l程度燃費が良くなっていました。

更にエコ運転は安全運転につながるとのお話も、以前は交差点の先頭で停止後に発進し、左折の際に歩行者・自転車に『ヒヤリ・ハッと』したことが何度となくあったのですが、発進時の速度を極力落とすことで『ヒヤリ・ハッと』が無くなり、安全な運転への変化を感じました。

唯一気になるのは車の操作安定性で、以前より遅いスピードで走行するためか、走行時に車体のブレが起きる頻度が多くなった気がします。これについては慣れれば解消すると思います。

このように実体験としてお伝えできるのも多くの知識をお話から得た結果です。この知識を多くの方々へ分かりやすい手段を用いてお伝えしたいと考えています。

今回はボルボ・カー 多治見さんへのインタビューということで車についてのお話でしたが、スウェーデンでの実生活にあるSDGsも是非見て、体験してお伝えできたらと思いました。

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